演奏会の聴きどころルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770–1827)とリヒャルト・シュトラウス(1864–1949)。 ともにドイツが生んだ偉大な作曲家である。 二人にはもうひとつ、興味深い共通点がある。 それは、父親が職業音楽家であり、我が子が音楽の道を進むよう、幼いときから環境を整えたことである。 ベートーヴェンの父は宮廷歌手で、息子が「第二のモーツァルト」となることを望み、小さいころからスパルタ教育を行った。 ルートヴィヒは、8歳でピアニストとしてデビュー、11歳で宮廷音楽家になり、12歳で作品が出版されるなど、期待通りの神童ぶりである。 ウィーンに移り住んでからも、最初はピアニストとして、のちに作曲家として、絶大な名声を得るようになった。 「レオノーレ」序曲第3番は、単独で演奏されることの多い魅力的な作品である。 交響曲第3番は、規模においても、構成においても、それまでの交響曲のイメージをくつがえす画期的な大作で、現在でもたいへん人気が高い。 ベートーヴェンは、ピアノ曲、室内楽曲、宗教曲など数多くの秀作を残し、特に交響曲の分野では、後年の作曲家たちを悩ませるほどの絶対的な存在となった。 シュトラウスの父は卓越したホルン奏者で、音楽院の教授でもあり、作曲もした。 徹底した古典主義者で、息子への音楽教育もその考えのもとにほどこされている。 シュトラウスも父の教えを守り、初期の作品は実に保守的なものであった。 しかし、長じてからの彼は革新的な音楽に目覚め、父が嫌っていた新しい世界に足を踏み出す。 その第一歩として発表されたのが交響詩「ドン・ファン」である。 以降、独自の音楽を生み続けてゆく彼は、器楽音楽でもオペラでも大成功を収めた希有な作曲家である。 父の背中を越えてゆく力は、時代を超越するほどに大きく羽ばたく力となった。